私と母とバイオリン

私と母とバイオリン

或るヴァイオリン奏者

私が初めて出会った楽器は、ピアノでした。練習嫌いで毎週のレッスンも大嫌いな不真面目生徒でした。そんなとき母がたまたま習い始めたバイオリンに出会いました。小学2年生の頃でした。ピアノは嫌だったくせにバイオリンに興味を持った私は母と一緒にレッスンに通い、これはちょうどいいと思いバイオリンを続けるのと交換条件でピアノをやめてしまいました。今弾けるのは「ねこふんじゃった」ぐらい。ちょっと後悔しています。

やりたいといって始めたはずなのに、やっぱり練習嫌いな私はあんまり練習もせずレッスンへ行くだけ、引越しを機にとうとうやめてしまいました。でも、バイオリンが大好きな母はあきらめませんでした。この曲が弾けるようになったら漫画を一冊ずつあげるとおだて、しかもそれが長編のガラスの仮面だったため、私は続きが読みたいがためにしぶしぶ練習をしていたのでした。それと同時に、「大学生になったら学生オケに入るといいよ?」と母はたまにつぶやいて私をこっそり誘導にかかります。「そうだね?」なんて聞き流していましたが。

ところがそんな私も高校生になると何となくまたバイオリンが好きになり、それを見て喜んだ母はすぐにまたレッスンに連れて行ってくれました。大学に入ると母のお告げ(?)に従って何の迷いもなくオーケストラに入団しました。それまでとは打って変わって、毎日何時間も練習をしてたくさんの本番を経験した、バイオリン漬けの大学生活でした。

ガラスの仮面につられ、母のつぶやきに見事のせられた私は、社会人になった今フィルハーモニア福岡という居場所を見つけ、楽しくバイオリンを弾いています。何も約束してなくても毎週会える人たちがいて、一緒に楽器を弾いてたまには飲みに行ったり遊びに行ったり。

まじめに練習していなかった過去の自分には今でも後悔しますが、粘り強く続けさせてくれた母のおかげで素敵なオーケストラと出会うことができました。母に心から感謝をして、これからもここで音楽を作っていきたいと思います。

(2012.9.20 Vn. K)