指揮:延原 武春

指揮:延原 武春

延原 武春 Takeharu Nobuhara 日本テレマン協会 音楽監督

1963年、日本テレマン協会の前身である“テレマン・アンサンブル”を結成。 以来50年余の歳月を経てその業績は目覚ましく、日本におけるバロック音楽の探究と普及という専門的領域のみならず、その広い視野と行動力によって、特に西日本の音楽文化の広範な普及に多大な貢献をもたらした後、近年では長年の古楽探究を礎とした音楽解釈とその熟練された手腕を持つ巨匠指揮者としての今後が大いに嘱望されている。

指揮者としてライプツィヒ放送交響楽団をはじめとする海外のオーケストラとの共演の機会が幾度もあったにも関わらず、その主眼はあくまでも自らが創設した日本テレマン協会での活動に注がれた。 1970年代後半からその評価は関西を超えて全国的なものとなり、テレマン室内オーケストラ・テレマン室内合唱団との演奏は文化庁芸術祭・優秀賞やサントリー音楽賞を受賞するまでに高く評価されることとなった。さらにはライプツィヒで開催されたバッハ生誕300周年記念国際音楽祭に日本の団体としては唯一招かれた。これまでにJ.P.ランパル、H.J.シェレンベルガー、A.ビルスマなどの名手と共演した他、J.E.ガーディナー、F.ブリュッヘン、C.ホグウッド、G.ボッセ等とも親しく交流することとなる。

延原武春の音楽的業績は、教会の聖堂を舞台としてテレマン作曲の『マタイ受難曲』やヘンデルの『メサイア』9種類の異版を取り上げるなど枚挙に暇がないが、殊にユニークなのが1982年にベートーヴェンの第九交響曲を初演当時の編成と作曲者指定のテンポに従って演奏すること・・・これはその当時としては極めて斬新なアプローチであったため、ガーディナーやホグウッドといった古楽演奏家達が延原の第九の録音を所望したというエピソードは大変興味深い。

延原のベートーヴェンに対するアプローチはこれに留まるものではなく、2008年にはクラシカル楽器によるベートーヴェン:交響曲全曲・合唱幻想曲・ミサ・ソレムニス・ツィクルスを挙行。これが契機となり延原は『ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小授章』を受賞することとなった。 2009年には大阪フィルに客演。2010年~12年には同楽団は延原とともにベートーヴェン:交響曲全曲シリーズを主催。「『大阪フィルの次代を拓く』と言って過言ではない名演」と「『田園』がかくも力強く、生命力にみちた音で鳴り響いたことはなかったのではないか」(評:故小石忠男/日本経済新聞2010年9月30日夕刊)等と絶賛を博するなど一際大きな話題となった。

また、同時期に日本フィル横浜定期演奏会にも客演。その際のブラームス:交響曲第1番はEXTONレーベルからCD化された。2011年には延原の元に多くのプレイヤーが集う“一日だけのオーケストラ”としてOrchestra Japan 2011が結成され、マーラー:交響曲第4番を演奏。その演奏はライヴノーツ・レーベルからリリースされ『レコード芸術』誌で特選盤に選ばれた。これらの成果が契機となってこのオーケストラは2012年にも再結集され、京都・大阪・神戸でやはりロマン派のレパートリーを取り上げている。

かつて、アーノンクールやガーディナーといった古楽のスペシャリストたちがヨーロッパのモダン・オーケストラから指揮者として招かれるようになったのと似通ったムーブメントが今、延原武春のもとにも起ころうとしている。